いったい、太夫にしても、三味線、人形遣いにしても、文楽は時間の感覚が普通ではないのである。
10年20年は若手、30年をこえてからようやく一人前。
たとえば、住太夫さんは1924年生まれ、戦争から生還して1946年22歳で遅い入門をしている。68年間の文楽生活をすごして89歳で引退、2012年に病気で倒れ、昨年いったん復帰したが。。。
。。。という感じなのである。 これは前回にも触れたように文楽が過去の継承を中心とした芸能であること。 つまりお客は何度も何度も繰り返しておなじ演目を見ているわけである。
「このまえの太夫のほうがうまかった」、「今日は三味線のだれだれが調子はずした」減点法で鑑賞されるから、演者は死ぬまで修行である。
新たな工夫や、自分なりの個性といったものは、余程の天才か、修行年限の長い者しか許されない。 非常にストイックなのである。
前回の人間国宝、越路太夫さん引退の折、落語の米朝さん ー 米朝さんにしろ人間国宝である ー がよくマクラに話していたが、歌手やタレントなら10年やれば先生、先生と大御所扱い、30年も活躍すれば大イバリであるが、文楽30年でようやく一人前、「エゲツない世界」である。
落語でも10年では、「とてもとても一人前とはいえない」芸事は修行が大変であると。。。
現代も同じようなモノである。 たとえば若手のホープ咲甫太夫を例にとってみると、
1975年生まれ、8歳の時、1983年入門、現在39歳31年目である、これで若手。
現在、文楽には歌舞伎のような世襲制度はない。 誰でも、文楽協会の試験を受けて技芸員になれる。 太夫、三味線、人形、好きな芸を選ぶことができる。
若者よ、30年、おなじ事をやる気はないかね。
もっとも、1月大阪公演2月東京、4月大阪5月東京、7、8月大阪、9月東京、11月大阪。 1年のうち7、8回東京、大阪の定期公演、地方公演をくわえるとヒマな月はない。
公演が終われば、次の準備、練習と、「新聞読むヒマもありません」と住太夫さん。
すこしあこがれるが、アタシャやっぱーーーお客でぇぇぇーーイイわさ~~
咲甫太夫さんの本。
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