「女殺油地獄」、おんな ごろし あぶら の じごく、 の続き…
二軒の油屋、河内屋の道楽息子、与兵衛(よへい)がお向かいの豊島屋の奥さんのお吉(おきち)を金目当てで殺す、殺人現場は血と油まみれ。だから 女殺し、油地獄!
1720年頃大阪での実話をもとに、近松門左衛門68歳の作品。 あまりくだらないので200年位、ホッとかれます。
明治時代、坪内逍遥がシェイクスピアを翻訳の後、これ読んで、すげ~! 再評価。ジャジャジャーン。イギリスでものちに Woman killer in oil hell として上演された。
それで近松が浪速のシェイクスピアと呼ばれる。浪速のモーツァルトではないですよ。
ポイントは与兵衛いがいの人物がみな、善人で道徳心という事。
河内屋の家族は数々の悪事でとうとう与兵衛を追放するが、それでも小遣いを向いの豊島屋に託す優しさがあります。
それを取りに来た与兵衛に、もっと金をねだられ、結局、お吉が殺されるのだが… それぐらいで、向いの奥さんを殺すか?ー 筋書き自体が不条理、狂気、テキトウに書いたんちゃうん?
その理屈が分かり難く、話のスジも通らないところが、江戸時代の客に受けなかった。
20世紀になってようやく観客の鑑賞が多面的になり、演劇研究も進んだ。
新しい解釈によると、江戸時代、道徳心が高く、分を守って生きていた大多数の人々のなかに、まるで理科の実験のように、極悪人、与兵衛を放り込んだらどうなる?という作者の意図があった。
作者、実験者は近松である。善人に優しくされたら、悪人が善人になるのか、逆に、極悪人になるのか?
この歳、既に百もの作品を書き、人間観察に優れた、近松の答えがこの究極の作品なのか? 翌年に死が迫った近松はもう面倒だったのか?
発端の、野崎参りの段で与兵衛とお吉の仲が親しい、という仄めかしもある。これを重視する見方もある。
昭和に作られた映画では殺人動機が弱いので、お吉殺しに、より納得できる、エピソードが付け加えられた。
人間のこころの闇ー不条理、狂気にメスを入れる名作か、凄惨な殺人現場を興味本位で扱った駄作か、ぜひ自分自身の目でご覧になってください。